8号車徒然草(マサヒロ曰く、人間は選択が多い)

　ところで皆さん、アイドルに何を求めていますか？　曲やパフォーマンスが好みであることはもちろん大前提だけど、人はそれだけでアイドルを好きになるんだろうか。私が超特急を好きな理由は、ライブの楽しさと圧倒的な多幸感。……で終われたらいいんだけど、実際はそれだけではない。私は超特急にもっと違うものを求めている節がある。
　私はアイドルに、超特急に、物語を求めてしまっている。そして超特急ほどドラマチックなストーリーを持つグループも、そうそういやしないのだ。
　まだ十代の男の子たちが突然集められてグループを組まされ、大人に言われるがまま活動をする。個性もモチベーションの在り処もてんでバラバラだった彼らに、そのうち東京ドームという一つの大きな目標ができる。しかし簡単にそこに辿り着けるはずもなく、彼らの前には大きな壁が何度も何度も立ちはだかる。
　困難の壁は高ければ高いほど、物語はより魅力的になる。競合と比べるとアイドル事務所としての力はなく、さしてノウハウもなければメジャーデビューもしていない彼らが、一握りのアーティストしか立つことができない夢の大舞台を目指す――まるで少年漫画みたいな筋書きだ。
　しかし、今年で結成十三年目の超特急は未だに東京ドームには立てていないし、音楽番組に出ることすら稀だ。私がファンになってから十年、音楽業界は超特急に徹底して無関心だった。よくテレビに出られないのはそれだけの実績がないからだと言われるが、だとしたらどんな実績が必要なのだろうか。オリコン一位を取ろうが、アリーナツアーで何万人集めようが、そんなもの何の「実績」にもならなかった。世間には私の大好きな超特急が見えていない。芸能界は超特急を透明にしても構わない存在だと思ってる。この十年間、超特急が輝けば輝くほど、悔しさと怒りが体中に充満して苦しくてたまらなかった。
　私は超特急が東京ドームに立つところを切望している。超特急が東京ドームに立ったとき、私は「勝った」と思うだろう。見たか、これまで超特急のことを「力がない」と相手にしてこなかった奴ら。見えないふりをしてきた奴ら。何万ものファンが固唾をのんで見つめる中、闇を切り裂くようなスポットライトに照らされながらステージの上に立つ超特急を見るのは、どれだけスカッとすることだろう！　貴様らは会場の外で悔し涙でも流すといい。それでこそ超特急の「物語」は完璧なものになる。革命と言ってもいいだろう。ああ、はやく勝ってほしい！　……とここまで来て、あれ、とおかしさに気付く。「勝つ」って、誰が。
　もちろん超特急が勝つに決まっているだろう、このストーリーの主人公は超特急なのだから。でも待って、それは超特急が言っていること？　だってこれを語っているのは他でもない、私（ただのオタク）なのだ。

　二〇二二年八月八日から、超特急は4人の新メンバーを迎えて9人体制になった。
　私はわりと長い間応援してきたほうなので、オリジナルメンバーの5人には並々ならぬ思い入れがある。正直私は、結成から今まで信じられないほどの苦難を乗り越え続けてきた5人が、5人のままで東京ドームに立ち、報われてほしかった。新メンバーオーディション開催が発表された際、超特急は「何人入れるかは決めてない、もしいい人がいなければ一人も入れないかもしれない」と言っていた。私は5人以外に超特急にふさわしい人物がいるなんて到底思えなかったので、採用者0で「やっぱり超特急にはこの5人しかなれないってことがわかりました、これからも5人で東京ドームを目指します！」と言ってくれることを望んでいた。
　だけどそんな願いは叶うはずもなく、超特急は9人になった。新メンバー4人の加入が発表された瞬間、胸になにかが詰められて息ができないような、そんな気持ちになった。４人って。超特急にふさわしい人がこの世に４人もいたわけ、ないじゃん。
　そうやすやすと9人の超特急を受け入れられるわけがなかった。……が、しかし。なんと加入から一ヵ月後の九月には、もう4人のことが結構大好きになっていた。そしてさらに三ヶ月後の十二月には、「9人の超特急、最高のグループ。」とTwitter（X）に書きなぐりまくっていた……。加入当初のショックの大きさとは裏腹に爆速で9人を大好きになっていたわけだが、決して誰でも、なんでもよかったわけではない。
　二〇二二年九月十三日、9人体制の初のシングル「宇宙ドライブ」のMVが公開された。これまで超特急は「ダサかっこいい」グループと自称することが多かった。他のグループがやらないような泥臭いことや王道のカッコイイから外れたことを「マジ」でやりぬくところがかっこいい。宇宙ドライブはまさにその「ダサかっこいい」を直球でやりにきてくれた楽曲だ。この曲が9人の超特急とオタクたちとの距離を近づけてくれた部分も少なくないだろう。
　そんなこの曲の歌詞は、びっくりするほど支離滅裂だし、特にストーリー性も何もない。本人たちもインタビューで「歌詞に意味はありそうでまったくない（笑）」*1と語っていた。それなのもかかわらず、私を含む多くのファンたちはこの曲の歌詞に惹きつけられた。たしかに曲全体の流れで見れば歌詞は全く意味が通らない。でもフレーズフレーズで見ると、どうも私たちが見ている超特急像と強くリンクしているような気がしてならないのだ。
　特にファンを惹きつけたフレーズは、なんといってもこれだ。

　「ありえない　見ててよ　正義は勝つぞ」*2

　私たちが見ている超特急は、超特急に見ている物語は、つまるところこれだ。ありえない？　見ててよ、正義は勝つぞ。超特急はいつかきっと東京ドームに立つ。ありえないと言われるほど険しい道であることは十分わかっている。でも超特急はズルなんてしない。正義が勝つところを私たちに見せてくれる。
　まるで長く超特急を見ていた人が書いたとしか思えないフレーズなのだが、作詞家もメンバーたちもさしてそんなことは考えていなさそうなのが不思議だ。やはり私たちが見ている超特急の物語はファンが一方的に紡いでいると言える。

　さて、宇宙ドライブの歌詞に意味はないのは重々承知だが、この「正義」っていったいなんなのか、考えてみたい。そんなこと考えたって意味はないかもしれないが、この歌詞がファンの心を動かしたことも事実だ。彼らに物語を見てしまっている私としては考えずにはいられない。
　この曲がリリースされてから一年と数か月、「これは超特急の『正義』と近しいのではないか」と思われるメンバーの言動がいくつかあった。その中でも特に私が「これだ」と感じたのは二〇二三年九月二十三日に行われた音楽フェス「Starlight Tokyo 2023」での超特急の振る舞いだ。
　デビュー間もないグループから十二年目の超特急まで、事務所の垣根を越えて様々な男性アイドルグループが出演したこのフェスで、なによりも注目を浴びたのは、言わずと知れた大手芸能事務所(現SMILE-UP.）に所属するA.B.C-Zの出演だ。私の知る限り、このようなフェスにこの事務所のアイドルが出演することは今までなかった。超特急も数えきれないほどフェスに出演してきたが、共演するのは初めてだ。
　超特急を応援してきた身からすると、やはりこの事務所は業界を寡占していたと感じる。もちろん所属タレントは全く悪くないのはわかっているが、「それ以外」のファンとしては正直、寡占を許し続ける構造や、彼らのファンの一部から投げかけられた無神経な発言に悔しい思いをしてきた。（ただ超特急はどんな時も彼らに対して一ミリもマイナス感情を見せたことはない。むしろその楽曲やパフォーマンスを褒めたたえるような姿を見てきた）
　超特急への心配はもちろんない。ただファンである自分はこのフェスを見てどんな気持ちになるんだろう……という不安を抱きながら、この日、私は会場へ向かった。今思うと、私はこのとき超特急に「勝って」ほしかった。
　ヘッドライナーに指名された超特急の出番は大トリだった。幾たびもアウェーをホームに塗り替えてきた超特急は、この日も会場にいるすべての人を巻き込んでみんなを笑顔にしてくれた。圧巻のパフォーマンスを終えステージ裏に帰っていった彼らに、会場から手拍子が送られる。ほどなくして再び9人がステージに現れた。アンコールだ。公演が終了したと思い出口に向かう観客に「もうちょっといたほうがいいかも～」などど冗談を言って場を和ませたあと、ライブのテッパン曲「Burn!」を元気いっぱい披露してくれたのだが、この日の「Burn!」はいつもとは少し違った。その日出演したグループからそれぞれ一人ずつアンコールのステージに呼んで、みんなで一緒に披露してくれたのだ！　それがどれだけ感動的なことだったか。
　「Starlight Tokyo 2023」は二日間あった。二十三日のヘッドライナーは超特急だったが、二十四日は別のグループだった。二十四日にはアンコールはなく、代わりに大トリであるヘッドライナーの出演時間が長かった。そもそもこのような形式のフェスにアンコールがあること自体珍しい。二日間の違いを考えてみると、憶測に過ぎないが、超特急は自分の出演時間を使ってこのアンコールを作ったのだと思われる。
　なんというか、言葉が出なかった。私は超特急に勝ってほしかった。超特急の正義を証明してほしかった。超特急の正義とは、その音楽性、そのパフォーマンス、その実力。そういったものだと思っていた。それで他のグループを蹴散らしてほしかった。それが「勝つこと」だと思っていた。
　でも超特急の考える「正義は勝つ」は、そんなものではなかったようだ。互いを認めて手を取り合って舞台に立つこと。エンターテイナー同士、協力し合って会場のすべての人を笑顔にすること。それが彼らが目指すあり方なのではないだろうか。そう思わずにはいられなかった。
　考えてみればそれは自然なことのように思える。超特急のダンスリーダーであるユーキくんは昔からメンバー一人一人の個性を活かしたいと発言していたし、オリジナルメンバーのタカシくんは、自分の色をあえて抑えようとする新メンバーのアロハくんに対し「抑えとこうってならなくてもいい気がしてる」*3と話していた。そうやってそれぞれの個性を尊重しあえる超特急なのだから、他のグループのことだって認め尊重するに決まっている。
　いままで私はずっと勝ち馬に乗りたいと思っていた。でもそれは超特急でないといけなかった。何年もの間超特急を見続け、その物語に没入してきた私にとって、超特急はもはやアバターのような存在だったからだ。超特急が勝ってくれないと困る。それは私が負けるのと同じことだから。超特急がカスみたいな業界と世の中で輝いてくれることが、私のどうしようもない人生の希望になる気がした。つまらない日常を繰り返す私が、誰からも振り向いてもらえない私が報われる気がした。勝ちたいのは他でもない、私だったのだ。
　でも超特急はそんな私の願望をする～っと肩透かしですり抜ける。スカッとするような勝利感を私に与えてくれる気はさらさらなさそうだ。でも、特に失望も落胆もしなかった。むしろあのアンコールを見て、やっぱり超特急はこうでなきゃと思った。会場の有明アリーナから出て駅まで歩く間、超特急が誇らしくて、そして、とてもすがすがしかった。
　結局、私が語る物語の中には、超特急の真実は存在しない。私のために動いてくれるアバターでもない。当たり前だけど、彼らは紙の上の筋書きではなく、生きた人間なのだ。超特急の人生と選択は私のものはない。私の思うようには何一つならない。だからこそ超特急を応援するのは楽しい。私の陳腐でエゴイスティックな物語より、実際の超特急のほうが数億倍面白いから。

　超特急が超特急であることは、ことのほか難しい。華やかで厳しいショービズの世界では、停滞すらも努力の上に初めて成り立つ。超特急が目標である東京ドームに近づくためには、最高のパフォーマンスを世間に見せつけ続けなければならない。そのなかで超特急は常に選択をしている。セットリストに何をいれるか、新曲は何にするか、どんなコンセプトがいいか。そして二〇二二年、超特急はとても大きな選択をした。
　新メンバーが入って超特急が得たものはとても大きい。まず迫力のあるダンスパフォーマンス、最高のハーモニーを奏でるツインボーカル、そしてもちろん、愛さずにはいられない個性を持つ4人の新メンバー。この選択は間違いなく成功だ。
　それに加えて、私はオリジナルメンバーの言葉に注目したい。超特急はいつだってファンに真剣に語りかけてくれるグループだった。ただ、特に一部のメンバーはどちらかというと感情で語りかけてくるイメージで、言葉自体の伝わりやすさはそこまで意識していないのではないか（いやもちろん意識はしているだろうが、それがうまく表れていないのではないか）というのが正直な印象だった。ところが新メンバー加入オーディションの実施発表時や、新メンバーお披露目後のオリジナルメンバー5人の言葉はとてもわかりやすく、洗練されていると感じた。「新メンバーの加入は超特急が変化するためではなく、進化を遂げるための選択だった」、ファンにどうやって語りかければこのことが伝わるのかと言葉を尽くしてくれていた。何より、超特急は彼らの仕事であり人生の一部なのだ。オリジナルメンバーは新メンバーを選ぶにあたって「超特急とはどんなグループなのか」「どんな人が超特急にふさわしいのか」をたくさん自問自答しただろう。そんな時間が彼らの言葉を洗練させたに違いない。
　二〇一七年の年末ツアーから、メンバーのユーキくんが超特急のライブの総合演出を担うことが多くなった。ユーキくんの考えるライブはストーリー性が非常に高い。特に毎年の年末ライブは、超特急の歴史と未来や、その時の超特急のすべてをライブに入れ込もうとしているんじゃないかという気迫を感じる。私が9人の超特急を完全に愛してしまった、この9人をずっと追いかけたいと決定的に感じたのも、やはり年末ライブを通してだった。新メンバー加入後初めてのワンマンライブ「新世界-NEW WORLD-」公演。新メンバーが加入してからわずか四か月後の公演にもかかわらず、全二十二曲、約二時間半のライブを見事やり遂げてみせた。そのクオリティも凄まじく、パフォーマンスにおいてはもはや誰が新メンバーで誰がオリジナルメンバーかわからない程だった。とてもこの短期間で用意したものとは思えないものだったので、メンバー全員がこの公演のために相当な無理をしたんだろうことは容易に想像できた。新メンバーが入るとき、カイくんは「正解だったのかって今はわかってません。正解にしていくべきだと思っています」*4と言い、ユーキくんは「ステージで証明していきます」*5と言った。このライブはファンに対する証明の場だった。超特急が9人になった、その意味の。
　特に新メンバー４人はたった数ヶ月で一筋縄ではいかない超特急のパフォーマンスを仕上げなければならず、しかも十年の歴史があるグループでいきなりアリーナに立つ（多くの既存のファンの目に触れる）ことがどれほどのプレッシャーだったのか、想像してもしきれない。それでも彼らは超特急としてのステージをやり遂げてくれた。
　一つ一つの選択が超特急を形作っていく。どこのグループもそうだと思うが、超特急は超特急であることをとても大切にしている。「超特急は唯一無二」、特にリーダーのリョウガくんが折に触れて言うその言葉を背負って活動を続けている。夢を諦めるわけにはいかない*6と言うのなら、超特急は常に挑戦しつづけなければならない。時にこれまでの超特急らしさに抗い、新たな可能性をオーディエンスに見せつけるのもその一つだろう。*7
　9人になってからの超特急は今までにないほどのスピードで駆け抜けつづけている。もしかしたらこの9人なら東京ドームに立てるかもしれないと思う。いや、立つ、と言い切る。私は7人、6人、5人の超特急を見てきた。9人の超特急はそのどれとも違う。でも変わらないな、とも思う。6人時代にリリースされた「SAIKOU KOUSHIN」という楽曲にこんな歌詞がある。（ちなみに作詞はメンバーが自分たちで行ったそうだ*8）

命を燃やすより 魂を燃やせ
悔いなき選択をせよ さぁ行こう 行進
「俺らこそ唯一？」無二！
心通わせ 最高更新*9　

　最高を更新し続けることは彼らにとっても簡単なことではない。超特急を走らせるため選択をしつづけている。そこで生まれる筋書きに私は勝手に正義を見出し、物語を語る。でもきっとこれからも超特急はそれをするっとすり抜けるだろう。だからこそ超特急がどんな選択をし、それがどんな結果を生むのか、ずっと見続けていたい。

*1:三橋あずみ「超特急「宇宙ドライブ」ロングインタビュー｜宇宙はもらった！新たな仲間とともに夢の終着駅へ──新生超特急が語り尽くす〝9人の旅の始まり〟」「音楽ナタリー」二〇二二年十月十一日（https://natalie.mu/music/pp/bullettrain36）［二〇二三年十月十四日アクセス］

*2:超特急「宇宙ドライブ」［楽曲］、株式会社SDR、二〇二二年

*3:「【２人っきりデート】想定外！㊙初出しトークでメンバー愛爆漏れ_超特急ビジレポ」二〇二三年八月十八日（https://www.youtube.com/watch?v=e1rMsKUdRhw）での発言の書き起こし

*4:「【超特急募 #4.5】新メンバー４人の自己紹介。そして９人での初パフォーマンス！」二〇二二年八月十二日（https://www.youtube.com/watch?v=uoNWllWKRR0）での発言の書き起こし

*5:同上

*6:ユーキくんは「まだ諦めてないんすよ夢」と泣きながら言った。同上

*7:９人になってから初めてのアルバム「B9」はそれまでの超特急のパブリックイメージとは違いクールなコンセプトだった。

*8:ラストサビはリョウガくんが作詞したのこと。三橋あずみ「超特急「Jesus」インタビュー」「音楽ナタリー」二〇一八年八月七日（https://natalie.mu/music/pp/bullettrain18/）［二〇二三年十月一七日アクセス］

*9:超特急「SAIKOU KOUSHIN」［楽曲］、「Jesus〝超〟超フェス盤」収録、株式会社SDR、二〇一八年